「アトリエ公開」のご報告御礼           岡本流生


新聞各紙様

この一日、二日に行いました「岡本流生 木版画アトリエの公開」は新聞各紙の事前の紹介記事のお陰もあり、成功裏に終えることが出来ました。改めて御礼申し上げます。

二日間の期間中の入場者は凡そ160人。 その後も、見にこられた方から話しを聞いた人達からの「まだ見られるか」の問い合わせが多く寄せられ、結果、11日までの展示公開となりました。 その間の訪問者は30人ほどで、トータル190人を越える方々に見て頂いた事になります。

普通の民家にこれだけの数のお客様をお迎えするのですから、目の回る忙しさとなりました。
私は一日中二階で版画の技法や道具の説明に追われ、昼食を食べる時間も無い有様。

また、階下では、兄が来て頂いた方々へのお茶の接待に大忙しでした。 狭い玄関は靴であふれ、中には間違えて他の人の靴を履いて帰られる方もおりました。


目的を果たせたか?

今回のアトリエ公開の目的は大きく3つありました。

一つ目は私の仕事場を見てもらうことで、地域の方々に私の仕事を理解していただき、一日も早く地域に受け入れられたいと言うもの。

これは、とても良い成果を得る事ができました。 公開最終日の夜、「一番清水の会」の新年会に参加したのですが、多くの方が入れ替わり立ち代り私の席まで見えて酒を酌み交わしてくださいました。 更に、閉会に当っての万歳三唱の音頭とりのご指名まで頂きました。  

朝の雪かき、雪捨ての時も、作業後は「家でお茶でも飲んでって」と声をかけて頂ける様になり、茶の間の炬燵で漬物や干し芋をいただきながら、いろいろ打ち解けてお話が出来るようになったのも嬉しいことでした。

思えば、私は今回の公開を、“仕事や作品を見てもらう事”と考えていたのですが、地域の方々に対しての“住まい方”の公開でも有ったのだなと気づきました。Iターンのよそ者の暮らしぶりが、少なくとも近隣に迷惑をかけないようだと思われた結果なのではないでしょうか。

しかし、道はまだ半ば、本当に大切なのはまさにこれからの“住まい方”にあるのだと思っています。


二つ目の目的は、この飯田、伊那谷の地域で、木版画の愛好者の輪を広げたいと言うものでした。これに付いてはまだこれからと言う思いがしますが、それでも幾つかの成果がありました。






会場に自作の木版画の年賀状を持参した方、また、絵が好きで版画も持っているという方もお見えになりました。更にいろいろ伺った話の中で、この地域で創作に励んでいらっしゃる木版画家が居られることも知りました。

期間中、作品も何点か買って頂けました。 これは、少ない数ではありますが、それでも木版画のファンをこの地で増やしていく種になりそうな気がしています。

もうひとつ、来場者の中のお一人から、この地で版画の愛好者を増やしたいのなら、毎月積み立て式の「木版画頒布会」の様なものを始めてみてははどうかとお勧めいただきました。 これは今後考えるべきことかも知れません。


最後の三つ目の目的は、伝統木版画に対する理解と認識を深めて頂きたいというものでした。これに付いては期待していた以上の大きな成果がありました。

来場の方々から「これが木版画なの」 とか「こんな色や線が木版画でできるんですか」と言った驚きの声が多く聞かれました。 「私が考えていた木版画とは全然違っていてびっくりしました」 「ぼかしの美しさや色彩の豊かさ、描写の細密さに感動しました」とおっしゃってくださる方もまた多くいらっしゃいました。

江戸時代の浮世絵以来の技術を伝え、作品を制作する伝統木版画の作家は、世界中を見渡してもほんの一握りしか居ないのが現状です。 今回のアトリエ公開でその技術の高さ、作品の美しさを観ていただいた方々にお伝えできたのなら、こんな嬉しいことはありません。

また、会場に見えた阿智村の関係者から「今度は然るべき場所で公開することも考えましょう」と言って頂けたのも、今後の新たな展開を期待させる意味で嬉しいことでした。


最後に、ここでどうしても触れておきたいことを。

今回の「アトリエ公開」を成功裏に終えることが出来た背景には、「阿智村清内路振興室」及び「清内路公民館」の多大な協力がありました。 正直、行政がここまで住民に寄り添い応援してくださるとは、長年都市部で暮らしてきた私には思いも寄らぬ事であり驚きでした。

「アトリエ公開」のチラシの作成、清内路地区の全戸配布に始まり、会場の設営に必用な機材・・・机、椅子、暖房器具と言ったものから、立て看板や道順、公開中を知らせる貼紙、更には来客用の湯飲みと言ったものまでお借りすることができました。

私が横須賀時代の名刺しか持ち合わせていないことを知ると、その日の内に、新しい名刺を作って届けてくださりもしました。

行政によるこの手厚い支援は、何も今回の私に限っての事ではありません。これは昔からの住民及びIターン、Uターン者への変わらぬ村側の姿勢なのです。この事はこれから阿智村に住んでみようかと考えている人達にとっても大きな励ましになるものと信じます。


住民主体の村政に敬意を表し、御報告を終わります。